第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
フィッツジェラルドの来訪の翌日。
探偵社は慌ただしく朝を迎えた。
「おい、朝刊見たか!」
「ニュースでもやってる」
乱暴に扉を開けて入って来た国木田にあたしは答える。
事務所のテレビの中では、女性アナウンサーが固い声音で現場の状況を説明していた。
「《事件現場です! ご覧ください。七階建ての建物が一夜にして消滅してしまいました!》」
一部情報筋では、消滅した建物はポートマフィアのフロント企業が入っており、構成員の事務所として使われていた。
市警は、敵対組織による襲撃の可能性もあると見て、軍警に協力を要請しているらしい。
そう、アナウンサーは続ける。
テレビのニュースを見て、国木田は苛立たしげに朝刊を握りしめた。
「『メッセージ』とはこれか」
「やはり、寮にも賢治君はいません」
賢治が愛用している麦わら帽子を持って、谷崎が入ってくる。
賢治が昨日から行方不明なのだ。
どう考えても、マフィアのフロント企業が入っていたというビルの消滅と無関係とはいえない。
「逆らう探偵社も用済みのマフィアも全て消す、か」
太宰さんの言葉に国木田は奥歯を噛みしめ、踵を返した。
「谷崎! これ以上単独で動くな。敦と詞織を連れて賢治を探せ。太宰は俺と会議室に来い。社長会議だ」
敵と接触しても、戦わず逃げろ!
そう言って去ろうとする国木田に、あたしは思わず声をかける。
「ま、待ってよ! あたしだって太宰さんと一緒に……」
「馬鹿を言うな。お前が会議に出たところで、太宰の飾りにしかならんだろう」
あたしはその言葉に愕然とした。
か、ざり……。
――太宰さんは、あたしのどこが好きなんだろう……?
何も言えずに黙っていると、太宰さんはあたしの頭を撫でる。
「行っておいで、詞織」
「あ……は、はい……太宰さん」
飾り……あたしがいても、役に立たないから……。
太宰さんが国木田と会議室に消える。
あたしは敦と谷崎と共に、探偵社を出た。
* * *