第21章 組合の長と探偵社社長
「『金で買えないものがある』、か。貧乏人の決め台詞だな」
吐き捨てるように紡がれるが、社長は眉一つ動かさずにそれを受け止める。
「だが、いくら君が強がっても、『社員が皆消えてしまっては会社は成り立たない』。そうなってから意見を変えても遅いぞ」
「ご忠告、心に留めよう。帰り給え」
「また来る」
フィッツジェラルドが立ち上がると、賢治が見送りに出た。
「お送りします」
不意にフィッツジェラルドは立ち止まる。
傲慢な顔に笑みを浮かべ、彼は口を開いた。
「明日の朝刊にメッセージを載せる。よく見ておけ、オールド・スポート。俺は、欲しいものは必ず手に入れる」
そう言い残して、フィッツジェラルドたちは探偵社を立ち去った。
* * *
その日の夜、太宰さんはあたしの部屋にいた。
何をするわけでもなく、あたしは布団の中で太宰さんの腕の中に収まっている。
「何を考えているの?」
「ん、そうだね。これから起こること……かな」
そっか、と呟いて、あたしはそれ以上何も言わなかった。
バカなあたしにできることは、太宰さんの思考を邪魔しないことだ。
「詞織」
名前を呼ばれて、あたしは視線だけを動かして太宰さんに応える。
「敦君が探偵社に入社し、組合がマフィアに敦君の捕縛を依頼した時点で、この問題は敦君だけのものではなくなったのだよ」
あたしはその言葉の意味を図りかねて、無言で先を促した。
それを理解している太宰さんも、あたしに何かを求めることなく続ける。
「戦いにおいて一番重要なのは、情報だ。相手をどれだけ知っているか。だが、残念なことに、私たちには組合の情報が圧倒的に足りていない。けれど……」
マフィアのことならば、よく分かっている。
言わなくても、その続きは想像できた。
「話すの? あたしたちのこと」
「探偵社とマフィア、そして組合の戦争は必ず起こる。探偵社が生き残るには、マフィアと組合の情報が必要だ。それに、私が話さずとも、初めて会った瞬間に乱歩さんは私たちの前職を見抜いているはずだよ」
確かに、乱歩さんのあの頭脳なら、あたしたちの前職がマフィアであることを、すでに見抜いているかもしれない。
乱歩さんが見抜いているということは、当然社長も知っているということ。
でも――。