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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第21章 組合の長と探偵社社長


「謝罪に良い商談を持って来た」

 フィッツジェラルドが指を鳴らすと、目つきの悪い男が大きなケースを取り出した。

「悪くない会社だ。建物の階層が低すぎるのが難だが、街並みは美しい」

 ケースの中身が何なのか、誰でも容易に想像できる。
 ドッ…と重たい音を立ててテーブル置かれたケース、そのフタが開かれると、ギッシリと札束が並んでいた。

「この会社を買いたい」

 唐突な申し出に、社長の瞳が驚愕に揺れた。
 そこへ、フィッツジェラルドは「勘違いするな」と指を立てる。

「俺はここから見える土地と会社、全てを買うこともできる。この社屋にも社員にも興味はない。あるのは一つ」

「まさか――」

「そうだ」

 フィッツジェラルドは、社長の予想が正しいことを肯定し、笑みを深くした。
 後ろの2人も不気味な笑みを顔に張りつける。

「『異能開業証』を寄越せ」

 やはり、それが目的か。

 この国で異能者の集まりが合法的に開業するには、国内の異能力者を管理する『内務省 異能特務課』が発行した許可証が必要だ。
 そして、彼らがどれだけお金を持っていようと、特務課を買収することなどできない。
 異能特務課は、表向きは存在しない秘密組織なのだから。

「連中を敵に回さず、大手を振ってこの街で『捜し物』をするには、その許可証が――」

「断る」

 必要、と続けようとしたフィッツジェラルドの言葉を遮り、社長は短く切って捨てた。
 ならば限定品の腕時計もつけると言う分からず屋の男に、社長は腹の奥底まで響く声で続ける。

「命が金で買えぬように、許可証と替え得るものなど存在せぬ。あれは社の魂だ。特務課の期待、発行に尽力して頂いた夏目先生の想いが込められている。頭に札束の詰まった成金が、易々と触れて良い代物ではない」

 そう。
 たとえ、万人が欲しがる宝をくれてやると言われても、世界を買えるだけのお金が積まれようと。
 許可証を渡すことはない。
 社長の言葉に、フィッツジェラルドは忌々しそうに眉を寄せた。
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