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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第21章 組合の長と探偵社社長


「会えてとてもとても嬉しいよ。プレジデント・フクナ……フクダ……」

 流暢な日本語を話すその男に、社長は「福沢」と答えた。
 どうやら「福沢」が出てこなかったようだ。
 それだ、と言って男はパチンッと指を鳴らす。

「ところで、ヘリを道路に停めさせたがまずかったかね? なにしろ、ヘリポートのない会社を訪ねるのが初めてでね」

 どう考えてもマズいだろう。
 現在、ヘリが乗っている道路は悲鳴を上げているぞ。
 それに、男の発言は、明らかに探偵社を格下として扱っていた。

「外国(とつくに)の方が遠路遥々ご足労でしたな。して、用件は」

 男たちの突然の訪問に対して、社長はどこまでも静かに応じる。
 そこへ、ナオちゃんが紅茶を運んできた。
 丁寧な所作でカップを置くと、男は興味深そうにカップを手に取る。

「ほぅ。珍しいデザインだ。陶磁器は詳しいつもりだったが。どこのブランドかな? ロイヤル・フラン? あるいはエル・ゼルガか?」

「隣の下村陶器店です」

 所作は丁寧なのに、言葉はかなり刺々しい。
 プィッとそっぽを向いたナオちゃんに気を悪くした様子もなく、「それは失礼」とカップに口をつけた。
 カップを置くと、男は名刺をテーブルに出した。

「フィッツジェラルドだ。北米本国で『組合(ギルド)』という寄り合いを束ねている」

 フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルド。

 マフィアの通信記録で見た写真と同じ容貌。
 あの自信に満ち溢れた顔つきと傲慢な態度が鼻につく。

「その他、個人的に3つの複合企業と5つのホテル。それに航空会社と鉄道と――」

「フィッツジェラルド殿」

 自分の優位性を誇示したかったのか、それとも単なる自慢なのか、何も考えていないのか。
 自分の経営する会社を列挙していくフィッツジェラルドを社長が遮る。
 静かなのに、社長の声には迫力があった。

「貴君は懸賞金でマフィアを唆し、我らを襲撃させたとの報があるが、誠か」

 鋭い眼光がフィッツジェラルドを射抜くが、彼はそれに笑顔で答えた。

「あぁ! あれは過ちだったよ、オールド・スポート。まさか、この国の非合法組織があれほど役立たずとは!」

 オールド・スポート……いつから社長は、この男の親友となったのか。
 軽い呼びかけのつもりなのかもしれないが、笑えない。
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