第21章 組合の長と探偵社社長
「マフィアの通信記録によると、出資者は『組合(ギルド)』と呼ばれる北米の異能者集団の団長だ」
組合?
確かに組合は敦の懸賞金のほとんどを出資していたけど、他の2組織だって……。
口を挟もうとしたけど、太宰さんはあたしにちらりと目配せをして発言を止める。
小さく頷く太宰さんに、あたしは余計なことを言わないことにした。
そんなことを考えていると、国木田が疑わしげな声を上げる。
「実在するのか? 組合は都市伝説の類いだぞ。構成員は政財界や軍の上層部を狙う一方で、裏では膨大な資金力と異能力で数多の謀(はかりごと)を底企む秘密結社――まるで三文小説のような悪玉だ。第一、連中がなぜ敦を?」
確かに。
敦は異能に目覚めたばかりの能力者。
異能力の珍しさや稀少さで言えば、太宰さんや与謝野先生の方が上だし。
攻撃力は高いけど、それは龍くんやあたしの異能だって同じこと。
わざわざ敦を狙う理由なんて見当たらない。
「仰る通りで」
敦が国木田の言葉に頷く。
太宰さんもそこまでは分からないようで、難しそうな顔で顎に手を当てた。
「直接聞くしかないね。会うのは難しいだろうけど、上手く相手の裏をかけば――」
「た、大変です!」
太宰さんの言葉を遮って、バンッと慌ただしく事務所の扉を開けたのは谷崎だ。
それに間を置かず、ゴオォ…と何か重苦しい音が窓ガラスを震わせた。
窓を開けると、プロペラが回る音が近くで聞こえる。
事務所の道路の前に、1機のヘリコプターが着陸した。
誰も何も言えず、息を呑んでいる。
ガシャンッと音を立てて、3人の人間が降りてきた。
カンカンカンッと高い音が鳴る。
赤いおさげの少女と目つきの悪い男が2人。
そのうち、先頭を歩くのは、背が高く、身なりの良い金髪の男だ。
その男は探偵社を見上げ、ニッと気味の悪い笑みを見せる。
「先手を取られたね」
薄ら笑いを浮かべる太宰さんは、珍しく冷や汗を浮かべた。
* * *
3人は事務所へ通されると、背の高い金髪の男はソファーに深く腰を掛け、長い脚を組んだ。
赤毛の少女と目つきの悪い男はその後ろへ控える。
その正面には、福沢社長が静かに座って応対していた。
あたしは太宰さんに命じられて、応接室のドアの隙間から血を伸ばし、室内の様子を窺う。