第21章 組合の長と探偵社社長
「おや、詞織。国木田君との話は終わったのかい?」
「う……はい」
つい、丁寧に返事をしてしまう。
振り向いた太宰さんの目がちょっと怖かったからだ。
あたしは太宰さんの膝に座り、小さく「ごめんなさい」と謝罪する。
あの日以来……と言っても昨日だが、太宰さんはあたしが他の人といたり、他の人の名前を出すと怖い顔をするのだ。
昨日もさんざんヒドイ目に遭ったし。
あたしが腕の中に納まって気を持ち直したのか、太宰さんが「で、何の話だったっけ?」と敦に視線を戻した。
「だから、同棲なんて聞いてません、って言ってるんですよ!」
「仕方ないだろう? 部屋が足りないんだ」
それに、と太宰さんは片目を瞑って見せる。
「新入りには家賃折半が財布に優しい」
あれ?
あたしは何を言いに来たんだっけ?
何だか、敦の龍くん撃退の話が、遠のく。
というか、何だかどうでも良くなってきた。
それに、太宰さんの腕の中、かなり落ち着く。
しかし、と言い募ろうとする敦に、太宰さんは鏡花へ視線を移した。
「彼女も同意しているよ」
ねぇ、と太宰さんが声をかけると、鏡花は感情の籠らない声で「指示なら」と答える。
黒い髪に赤い和服の少女は、先日敦たちの電車を爆破しようとした、ポートマフィアの暗殺者である泉 鏡花。
龍くんの部下だったけど、敦がマフィアに囚われたときも、彼を救出するべく上司に立ち向かった……らしい。
35人殺しとしてすでに指名手配されているが、探偵社に入社したいという鏡花の意志を汲み、現在は社長がその身を預かっている。
納得のいかない敦を招き寄せ、太宰さんは声を潜めて彼に語り始めた。
「分からないかい、敦君。マフィアに追われ、縁者もいない彼女は、沼の中のように孤独だ。それに、裏切り者を処刑するため、組織の刺客が来るやもしれない。1人暮らしは危険だよ」
「た、確かに……」