第21章 組合の長と探偵社社長
「敦が、り……っ」
「り?」
龍くんを……と言いかけて、あたしは口を噤んだ。
現在は探偵社の廊下。
国木田からは、先日の「人虎誘拐事件」の顛末を聞いていた。
もちろん、「なぜ携帯に出なかった⁉」というお説教つきで。
「本当なの? あ……くた、がわを倒したって……?」
普段から「龍くん」と呼んでいるせいで、「芥川」と呼ぶことにかなりの違和感。
それをどうにか絞り出したものの、あたしは衝撃を受けていた。
「本当だ。芥川の生死は不明だが、恐らく死んではいないだろう。戦闘後、敦は泉鏡花と共に密輸船を脱出した」
「そんなことあり得ない‼」
あたしは思わず叫んだ。
「だって、そうでしょ⁉ 敦はついこの間まで自分の異能どころか、異能の存在すら知らなかったのよ⁉ その上、戦闘経験も少ない敦が、だざ……っ」
またしてもうっかり、「太宰さんが教育係を務めた龍くんを」と続けそうになってしまい、慌てて口を押さえる。
そんなあたしに、国木田は怪訝な表情をした。
「何だ、お前。少し変だぞ?」
「へ、変じゃないもん」
そうだ。
異能に目覚めたばかりで戦闘経験も少ない敦が、芥川龍之介を倒せるはずがない。
それに、彼は太宰さんが育てたのだ。
太宰さんはかなり厳しく接していたが、龍くんを高く評価していた。
遠からず、マフィア最強の異能力者になると。
それを、いくら太宰さんが拾ったとはいえ……。
「信じないもん。太宰さんの1番はあたしなんだから……っ」
あたしは駆け出した。
目指す先など決まっている。
扉を開けて、あたしは事務所へ入った。
「太宰さん!」
「同棲なんて聞いてませんよ!」
そこでは、敦と太宰さん(時々、泉 鏡花)による三文芝居が繰り広げられていた。