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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第4章 無知な少女


「さて、君の持つ異能について幾つか聞きたいことがある」

「イノウ……」

「君や私が使うような、不思議な力のことだよ。まぁ、それ以外に説明のしようはないがね。分かったかい?」

「……はい」

 そう返事をした詞織に、私は濡れた髪を撫でてやる。
 すると少女は、気持ちよさそうに目を細めた。
 その姿は本当に可愛い。
 殺すことにならなくて良かった。

「まず、君の異能について聞きたい。『自身の血液を操る能力』で間違いないかい?」

 詞織はコクンと頷いて肯定する。

「血を操る以外にできることは?」

「硬くしたり、柔らかくしたり……」

 そう言って、詞織は人差し指に歯を立てる。
 お湯に浸かっているせいか、出血量が少し多いようだ。
 血液は能力者の意思に応じ、やがて一振りの紅い短剣になった。

「武器化できるわけだね」

 コクンと詞織はまた頷く。

「他は……」

 少女は短剣を振って血液を浴室の壁に飛ばし、指を鳴らした。
 パチンッという音を合図に、壁に付着した血液が破裂する。
 威力を最小限に落としていたのか、壁にわずかな傷ができた。

「…………」

 私は黙って先を促す。

「あとは、切り傷とかかすり傷くらいなら……自分の血を飲んで治せる」

「……なるほど」

 どうやら詞織は、万能型の異能力者のようだ。
 特に、血液で武器を作れるのならば、戦闘の幅も大きく広がる。
 それに、『自身の血液を操る』異能……ならば、本人も知らない使い方があるのではないだろうか。
 私は頭の中で様々な可能性を考える。

「君が異能を使ったのはさっきが初めてかい?」

 今度はフルフルと首を振って否定した。

「家によくアレが出るから……それを退治するのに使ってた。人に使ったのは初めて」

「アレ?」

「…………ゴで始まってリで終わる虫…………」

「あぁ、ゴキ……」

 少女は「ひっ」と小さく悲鳴を上げ、慌てて耳を塞ぐ。
 どうやら、名前すら聞きたくないらしい。
 涙目で必死に何かを訴えてくる詞織に私は苦笑する。

「分かった分かった。さぁ、このままではのぼせてしまうよ。そろそろ上がろうか?」

 私は詞織の身体を拭いてやり、ついでに髪を乾かしてあげた。

* * *

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