第4章 無知な少女
詞織を風呂から上がらせた私は、少女と一緒にベッドに入った。
詞織に腕枕をしてやり、小さく細い身体を腕の中に収める。
「そうだ、確認していなかったね。君は学校には通っていたのかい?」
フルフルと詞織は否定した。
やはり、と私は内心で頷く。
「読み書きはできるのかな?」
「あんまり……」
あんまり、ということは、全くできないわけではないか。
「計算はどうだい?」
「……?」
紅い瞳で疑問を投げかけてくるから、私は幾つか簡単な問題を出してみることにした。
「3+5は?」
「8」
「12-7は?」
「5」
「42+29」
「…………71」
少し考えて、詞織は正解を導き出す。
足し算と引き算は問題ない。
「じゃあ、4×6は?」
「……かけ?」
掛け算は無理か。
「10÷2は?」
「…………」
詞織は首を振る。
どうやら、異能以外にも教えなければいけないことが多そうだ。
そんなことを考えていると、黙ってしまった私に何を思ったのか、詞織が私の服を引っ張って注意を引いてきた。
「何だい?」
すると、不安そうな紅い瞳が私を映す。
そして――……。
「……捨てないで」
小さな声が、それでもはっきりと聞こえた。
その台詞に、私の胸が甘く痺れる。
私はゆっくりと笑みを作り、すぐ近くにある少女の頭を優しく撫でた。
「大丈夫、捨てたりしないよ。寝る前に頭を使わせて悪かったね。さぁ、少しでも眠るんだ。おやすみ」
「…………?」
再び視線だけで疑問を投げかける。
「寝るときは、『おやすみ』と言うんだ。言ってごらん?」
『おやすみ』の意味が分からなかったらしい少女に説明してやれば、詞織はその意味を呑み込むように紅い瞳を伏せ、小さな唇を開いた。
「おやすみ、太宰さん」
そう言って、詞織は私の身体に手を回し、ギュウッと抱きついてくる。
初めて名前を呼んでもらったことに喜んでいる自分を見つけて、私は内心で苦笑した。
全く、私は何をやっているのだろうね。
もう一度頭を撫でてやり、私は優しく言葉を紡いだ。
「おやすみ、詞織」