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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第4章 無知な少女


「……美味しい、と思う」

 小さな手でスプーンを握り、再び食事を始める。
 ゆっくりとした動作でスプーンを口に運ぶ姿は、微笑ましいのはもちろんだが、やはり可愛い方が勝る。
 やがて、詞織がスープを飲み終わる頃に、丁度よく風呂が沸いた。

* * *

 詞織の着ていた服を脱がせ、その服は処分するよう部下に指示を出す。
 どうせ破れているし、返り血も酷い。
 もう着られないだろう。
 明日着ていく服はすでに用意させていた。
 私は上着を脱ぎ、ブラウスの袖を大きく捲りあげて浴室へ入る。
 詞織を椅子に座らせ、私はシャワーの温度を手で確認し、少女の身体にお湯を掛けた。

「……んっ」

「熱かったかい?」

 声を上げた詞織に聞いてみたが、フルフルと小さく首を振る。
 もしかしたら、傷に染みたのかもしれない。
 詞織の雪のように白い肌には、小さな傷が無数に刻まれていた。
 しかし、どれも新しい傷で、そのほとんどは塞がっており、数日もすれば痕も残らないだろう。
 私はたくさんの質問を後に回し、詞織の髪を洗ってやる。
 艶やかな黒髪にシャンプーを施し、ほどよい力加減で泡立てた。

「痛くないかい?」

「んっ、……はい」

 ギュッと目を閉じる詞織に、私は苦笑する。
 そんなに力を入れて目を閉じなくても、目には入らないよ。
 私は少女の髪を洗い流し、コンディショナーもしてあげた。
 何となく、首領の気持ちも分かるような気がした。
 幼い少女を可愛がる首領を思い出し、彼もこんな気持ちなのだろうかと想いを馳せる。
 なんだか、何でもしてあげたい気持ちだ。
 そこまで考えて、私は内心で首を振る。
 否、首領のあの気持ちが理解できてしまったら、人として終わりだ。
 今のはなかったことにしよう。
 詞織の身体まで洗い、私は少女を浴槽に浸からせた。

* * *

「はぁ……」

 ホッと一息吐いた詞織に、私は笑いかける。

「気持ち良いかい?」

「ん……」

 詞織が小さく頷いたのを見て、私はタイルの上に膝をつき、浴槽の縁に腕を置いた。
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