第20章 彼と少女の恋愛事情
「あんなに優しく抱いてあげたのは、君が初めてだよ。処女を抱いたのもね」
「……それは喜ぶことなの?」
「嬉しくはないかい?」
「嬉しい……うーん、よく分からない」
そうか、と私はわざとらしく肩をすくめて見せる。
「だったら、取引をしようか?」
「取引?」
私はニヤリと口角を上げた。
「そう。私は今後、君以外の女性を抱かない。その代わり……」
「その代わり……? あたしは何をすればいいの?」
詞織が大きな紅い瞳を丸くさせて私の言葉を待つ。
「君も私以外の男に身体を許さないこと」
「触られちゃダメってこと? そんなのムリだよ」
「まぁ、そうだろうねぇ」
本来なら、誰にも触れられず、誰とも言葉を交わさず、誰もその瞳に映さず、誰にも見られず……ただ、私だけを見て、私だけを感じて欲しいのだけど。
どこか、私しか知らない場所に……。
そんなこと、無理なのは分かっているけどね。
私は「だから」と続けて、詞織の手首に吸いついた。
「いっ……」
痛いと訴える彼女の手首の内側に、紅い所有の証が刻まれる。
「こういうことを、私以外にはさせないってこと」
そして、私は詞織に口づけた。
そろそろ、私も限界だ。
彼女を仰向けの状態にして、私はそれに覆い被さった。
「太宰さん……?」
「取引に応じられるかい?」
私の問いに詞織は真剣な顔で頷いた。
「分かった。太宰さん以外の男の人と、こーゆーことしない」
「口づけもしてはいけないよ?」
「太宰さんもしちゃダメだからね」
「もちろん」
「ん」
私が頷くと、彼女は花が綻ぶような笑みを見せてくれる。
私も笑顔で応じると、詞織は「じゃあ」と言葉を紡いだ。
「あたしはこれからもずっと、太宰さんの1番でいられるの?」
私の1番。
詞織がずっとこだわっていることだ。
昔から芥川君ともそのことで張り合っていたことを知っている。
「1番より、もっと相応しい言葉があるだろう? 私と詞織は、今日から……」
そう言って、私は彼女の耳に唇を寄せた。
「……『恋人』だ」
なんて言いながら、私は自分が可笑しかった。