第20章 彼と少女の恋愛事情
それが愛しくて、私は夕べ、その傷の一つ一つに口づけた。
詞織の雪のように白い肌には、異常とも思えるほどの所有の証が刻まれている。
そのことに歪んだ優越感を覚え、私は彼女の頬に触れ、その額に口づけを落とした。
彼女は、いつか自分が捨てられるのではないかと怯えていたが、とんでもない。
――私は櫻城 詞織を手放す気はない。
あの日、織田作が死んだときもだ。
詞織は自分の意志で私について来たと思っているだろう。
けれど、彼女をマフィアに残して行くことくらい、私には容易かった。
それに、織田作が誰の策略に巻き込まれて死んだのか。
それを知った彼女がどう思い、どう行動するのかだって、私には手に取るように分かったのだ。
そうしなかったのは、私が詞織を手放したくなかったから。
未だ眠る彼女の髪を弄ぶ。
こんな穏やかな気持ちで朝を迎えたのは、どれくらいぶりだろうか。
そろそろ詞織の紅い瞳が見たくて、私は彼女の唇に自分の唇を重ねた。
軽く顎を持って口を開かせ、詞織の口内を蹂躙する。
次第に息が苦しくなってきたのか、やがて彼女は目を開いた。
紅い瞳がさ迷い、ようやく私の瞳を捉える。
「太宰、さん……?」
「おはよう、詞織」
自分でも驚くほど甘ったるい声が出た。
夕べは下の名前を呼ばせていたのだが、また『太宰さん』呼びに戻っている。
まぁ、いいか。
情事のときだけ下の名前を呼ぶというのも、なかなか良いかもしれない。
「身体は辛くないかい?」
初めてだったのは分かっていたから、だいぶ優しくしたつもりだけど。
「ん……大丈夫」
詞織が視線を逸らす。
かなり辛いようだ。
彼女は嘘を吐くとき、相手の目を見られない。
それを察して、私は布団の中で詞織の腰を引き寄せた。
それだけで、私の中の欲望は頭をもたげる。
「太宰さんはいつも、女の人とあーゆーことしてるの?」
「するときもあるね」
「……ふぅん」
表情を曇らせ、詞織は不機嫌そうに頬を膨らませた。
その様子が可愛くて、私は彼女の頬を軽くつつき、目尻に口づける。