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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第19章 少女の「好き」と彼の「好き」


「わ、分かんないよ……」

 泣き出したくなって、涙を必死に堪える。
 少しでも気を緩めれば、涙はすぐに頬を伝うだろう。
 そんなあたしを見ていた太宰さんは、これ見よがしに大きくため息を吐いた。

「……私にどうしてほしいんだい?」

「女の人のところに、行かないでほしい」

「どうして?」

「だって……」

 嫌な気分になるから……なんて言ったら怒るだろうか?
 その答えが言えなくて、あたしは黙り込む。
 沈黙が恐ろしくて、けれど何も言えないまま、時計の針だけが音を立てていた。

「……私が今日言ったことを覚えているかい?」

 あたしの部屋を支配していた沈黙を破り、太宰さんが口を開く。

「太宰さんが、言ったこと……?」

 どれのことだろうか?
 中也と話していた取引?
 美女と心中したい話?
 敦に懸賞金を懸けていた奴らを調べていたこと?

 色々と思い至り、あたしは首を傾げる。
 すると、太宰さんは再びため息を吐いて、あたしを引き寄せた。

「ん……っ」

 身を屈めた太宰さんがあたしの唇を奪う。
 離れる太宰さんの顔に、あたしの顔は真っ赤になった。

「このことだよ。もう忘れてしまったのかい? 私、泣いてしまうよ?」

「泣いて……? ふぇ? え?」

 大パニックに陥るあたしに、太宰さんは肩を落とす。
 何を言いたいのかも分かっていないが、太宰さんが何を伝えたいのかも分からなかった。

「だ、太宰さん?」

「ん?」

 いつもと変わらない太宰さんの態度に、いちいち反応している自分が馬鹿みたいだ。
 これでは、あたしも中也や国木田と同じではないか。
 太宰さんの1番を自称しておきながら、結局は彼の玩具なのだ。
 それが悔しくて、あたしは砂色のコートを掴む手に力を込める。

「私は言ったはずだよ」


 ――「君が私に向ける好きと、私が君に向ける好きが、違ってしまったんだ」


「そんな態度を取られては、期待してしまうよ?」

「期待って?」

 何を言っているのかが分からない。
 それは、あたしが馬鹿だからだろうか?
 それとも、太宰さんの言っていることが難しいのだろうか?

 どちらにしろ、話は一向に進まない。
 あたしはただ、太宰さんにここにいて欲しい。
 どこにも……女の人のところにだって行って欲しくない。
 そう、あたしは太宰さんに伝えた。
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