第4章 無知な少女
予感めいたものがあったと言ったら、誰か信じてくれるだろうか。
きっと信じてくれるだろうね。
私の勘はよく当たるから。
実際、当たっただろう?
まさか、こんなに面白いものが拾えるなんて。
* * *
私は部下に命じて、一足先に首領(ボス)へ伝令を送った。
我々を裏切っていた組織の壊滅と……。
――そのついでに、良い拾いものをした、と。
報告も兼ねて、早朝連れていく旨を記す。
ついでに、櫻城詞織という人間についても調べるよう命じた。
私は隣を歩く少女を見る。
黒く長い髪、闇夜にほの白く輝く肌、大きな紅い瞳、傷だらけの身体、折れそうなまでに細い四肢……。
それを見るだけで、少女がどんな環境で育っていたのかが分かった。
「夜が明けたら、君を首領に引き合わせる。今ならまだ引き返せるよ」
「……引き返したら、あたしは殺されるんでしょ?」
私を見上げる紅い瞳が揺れる。けれど、そこには一片の曇りもなかった。
私は「そうだね」とひと言答える。
少女――詞織は、それ以上何も言わなかった。
引き返す必要はない、ということだろう。
「では、服を用意しなければ。そんなボロボロの格好では首領に会えない」
詞織は首を傾げ、自分を見下ろす。
「ひとまず、どこかホテルに泊まろう。お風呂に入って、食事をして、話はそれからだ」
私は詞織の手を引いて、ポートマフィアが経営しているビジネスホテルへ向かった。
* * *
「お湯を張るから、先に軽くお腹に入れるといい」
私はそう言って、ホテルマンにスープを用意させる。
真夜中だから、あまり食べ過ぎるのもよくないだろう。
「…………」
部下が「私が遣ります」と慌てて気を遣ってくれたが、私はそれを断った。
この部屋にいるのは、私と詞織だけ。
「詞織。分かったのなら『はい』と返事をするんだ。そうでないと、君に伝わったかが分からないよ」
「……はい」
どうやら、そんな簡単なことも分からないようだ。
育児放棄(ネグレクト)を受けていたのだろう。
学校に通っていた様子もみられない。
「美味しいかい?」
正面に座って、スープを飲む詞織に尋ねる。
すると、少女は少し考えるように紅い瞳をさ迷わせた。