第18章 青年の本音と口づけ
「やぁ、ご無沙汰!」
「え? ど、どうも」
太宰さんはすれ違った構成員に手を上げて挨拶をした。
構成員はとっさに挨拶を返したが、頭に疑問符を浮かべて去って行く。
鼻唄混じりに廊下を歩く太宰さんに、あたしは小走りでついて行った。
やがて、あたしたちは通信室に着いた。
太宰さんが暗証番号を入力して扉を開ける。
4年前と番号は変わっていなかったみたい。
「さて。では、記録を探そうか」
「はい、太宰さん」
あたしは無理やり頭を切り替え、人虎――敦に関する資料を探す。
しばらくして、太宰さんが「あった」と声を上げた。
あたしは探すのを止め、太宰さんが持つ資料を覗き込んだ。
しかし、あまりの顔の近さに、あたしは赤くなる。
そんなあたしを見て微笑む太宰さんにまた恥ずかしくなって、あたしは少しだけ彼と距離を取った。
「70億も払って虎を買おうとしたのは、どこの誰かな?」
ピタリ、とページをめくっていた太宰さんの手が止まり、彼は大きく息を呑んだ。
「太宰さん?」
あたしは資料を見る。
そこには、3人の人間の名前が書いてあった。
――能力者集団《組合》団長 フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルド
――《時計塔の従騎士》近衛騎士長 デイム・アガサ・クリスティ爵
――地下組織《死の家の鼠》頭目 フョードル・ドストエフスキー
あたしも息を呑んだ。
どの組織も海外の異能組織だ。凶悪な組織で、実力は未知数。
きっと、彼らも諦めていないだろう。
これから、敦を狙ってくる可能性が高い……ということは。
彼らの組織と対決することになるかも。
「…………」
あたしは何も言えずに沈黙する。
少しだけ、怖い。
幕僚護衛の任務で異能力者と戦う機会はたくさんあったけど。
これから戦うことになるかもしれない海外の異能力者たちは、あたしが戦ってきた敵とは比べ物にならないくらい強い。
そんな相手が、本気で殺しにくるのだ。
そんなことになったら、あたしは――……。
相手を殺さずにいられるだろうか。
もともとあたしの異能は殺傷能力が高い。
あたしはもうマフィアじゃなくて、探偵社の社員で、人を救う人間になったつもりだけど……。