第18章 青年の本音と口づけ
――「太宰さんに銃口を向けるなんて……死ぬ覚悟はできてるの?」
――「死にたいの? ……次は気絶じゃ済まさない」
それでも、あたしの中にはまだ、『誰かを殺して』解決しようとする部分が残っている。
殺されそうになって逃げられればそれでいい。
戦闘で死んでしまうのは、まだマシ。
でも、もし、殺されそうになって、誤って敵を殺してしまったら……。
あたしは、探偵社にはいられなくなる。
少しでも何かが狂えば、あたしは間違いなく『闇』に戻ってしまう。
あたしが立っているのは、そんなギリギリのライン。
あたしは、人を殺すことは怖くない。
人を殺すことに慣れ過ぎているから。
あたしが怖いのは、『人を殺す側』に戻ってしまうこと。
作之助の言葉を護れないこと。
だって、あたしはそのために太宰さんと組織を抜けたから。
太宰さんと『救う側』で、一緒にたくさんの人を助けたい。
これからも、ずっと……。
無意識に握りしめていた拳に、太宰さんがそっと触れた。
「帰ろう、詞織」
彼はそう言ってあたしの手を握り、そっと微笑んだ。
大丈夫。何も心配いらない。
そう、太宰さんの瞳があたしに語りかける。
それだけで、あたしの中の恐怖は消えた。
いつだって、太宰さんはあたしの恐怖を取り除いてくれる。
何も、怖くない。
怖いことはたくさんあるけど。
でも、怖くない。
太宰さんがいてくれるなら、あたしは何も怖くない。
何度も、何度も。
あたしは自分に言い聞かせる。
太宰さんの手をギュッと握り返し、あたしは太宰さんを見上げた。
「……何だい? 詞織」
尋ねる太宰さんに、あたしは先ほどの口づけを思い出す。
急に恥ずかしくなって、真っ赤になった顔を左右に振った。
そんなあたしが可笑しかったのか、太宰さんはクスクス笑いながら、「そうかい」と返事をする。
――「これがどういう意味か、よく考えてみるといい」
馬鹿なあたしがいくら考えたって、答えが出るわけない。
それでも、あたしの頭は考えることを止めてはくれなかった。