第18章 青年の本音と口づけ
「死んでたかもしれない……死にたがっている私にとっては、それは好都合というものだよ」
美女と心中が夢だと語っていたにも関わらず、太宰さんはそう言った。
あたしはそれを指摘しない。
太宰さんの目的はあくまで『死ぬこと』なのだから。
太宰さんが死にたがっていることなんて知ってる。
ずっと、ずっと前から知ってる。
だから、あたしがいつか殺すって、そう言った。
太宰さんを殺すのはあたしなんだからって。
でも、本当は死んでほしくなんかない。
でも、本当は――……。
「……死んで」
あたしは初めて、『本心』で太宰さんにそう言った。
自殺に失敗した太宰さんに、「そのまま死ねばいい」と言ったことは何度もある。けれどいつも、「その前に殺す」とつけ足していた。
あたしはさらに力を込める。
「……あたしを捨てる太宰さんなんていらない。あたしのことがいらない太宰さんなんていらない」
太宰さんに必要とされなくなったら、あたしなんて何の価値もないに。
太宰さんのいない世界なんて、生きてる意味ないのに。
「……だから、あたしもいらない。太宰さんに捨てられたあたしも、太宰さんに必要とされなくなったあたしもいらない。でも、その前に……あたしが死ぬより前に、太宰さんが死んで」
そう言うあたしの腕に、太宰さんはそっと触れて微笑んだ。
「誰が……君を捨てるなんて言ったんだい?」
ピクッと、太宰さんの首を絞めていた手が緩む。
「こんな無茶するくらい、敦のことが大事なんでしょ?」
「そうだね。大事かどうかは別にして、彼は必要な人材だ」
「あたしより?」
「どうだろうか?」
質問に質問で返す太宰さんは、明確な答えを口にしない。
「今日こそ私を殺すかい?」
「…………」
あたしは何も答えなかった。
太宰さんの瞳に、あたしの紅い瞳が映り込んでいる。
彼は手を伸ばし、あたしの頬に触れた。
「私は、君が考えるより楽しみにしているのだよ。君が私を殺してくれるのを」
ビクッと、あたしの身体が震える。
それは、あたしに殺してほしいってこと?
そんなこと、できるわけないって分かってるくせに。
でも今、あたしは本気で太宰さんを殺そうとしていて。
太宰さんの言葉に、あたしの気持ちは揺れている。