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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第18章 青年の本音と口づけ


 一頻(しき)り笑った太宰さんがあたしに歩み寄る。

「大丈夫かい?」

 手を差し出してくれた太宰さんをあたしは――……。


 ――ドスッ


 動かないはずの身体のどこにそんな力があったのか。
 そんなことを思う余裕は、あたしの中にはなかった。
 あたしは傷口から流れる血を操って、太宰さんを貫いた。
 霧散するあたしの異能。
 それを無視して傷だらけの太宰さんの腕を引き、床に押さえつける。
 仰向けに倒れた太宰さんの上に馬乗りになって、あたしはその首に手を掛けた。
 それなのに、太宰さんは顔色を変えることはなくて。
 それが余計にあたしを苛つかせる。

「……君はいつも、『異能』で私に攻撃するね」

 異能では私を傷つけることはできない。分かっているだろう?
 そう、言外に告げている。
 でも、あたしはそれに答えなかった。

「何でこんな無茶したの?」

「さっき中也に話した通りさ」

「どうして教えてくれなかったの?」

「君に手を借りる必要もなかったからね」

「心配したんだよ」

「それはもちろん分かっているよ。君が来ることもね」

 太宰さんの素っ気ない答えにあたしは奥歯を噛みしめた。
 彼の頭の良さは知っている。
 あらゆる可能性を考慮し、最も確実な方法を取っていることも。
 それでも、せめて教えておいてほしかった。
 無意識に手に力がこもったけど、あたしはそれを緩めることをしなかった。
 悔しくて、悲しかった。
 でも、それだけじゃない。

 苦しかった。

 それが、あたしの胸の内で渦巻く感情の中で、一番強い。
 堪えきれない涙が、そのまま太宰さんの端正な顔を濡らす。

「……そんなに、敦が大事……?」

 ポツリ、と。
 そう零すと、あたしの中の様々な感情が言葉となって溢れ、止まらなくなった。

「そんなに敦が大事なの? あたしはもういらない? 太宰さんの中で、敦が一番なの?」

「どうしてそう思うんだい?」

「だって……っ」

 敦のために、こんな無茶したんでしょ⁉︎
 死んでたかもしれないんだよ⁉︎
 組織に捕まることがどういうことかなんて。
 そんなの馬鹿なあたしだって分かる。

 そう、あたしはまくし立てた。
 けれど、首を絞められているにも関わらず、太宰さんは小さく笑う。
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