第17章 紅の櫻守
「終いだ。最後に教えろ。わざと捕まったのはなぜだ。ここで何を待っていた」
中也の問いに、太宰さんは沈黙する。
首を押さえつけられているにも関わらず、太宰さんの顔に焦りは感じられない。
「だんまりか。いいさ。拷問の楽しみが増えるだけだ」
中也は懐から出したナイフを振り上げる。そんな中也に、太宰さんは目を伏せて口を開いた。
「……一番は、敦君についてだ」
「敦?」
ようやく、太宰さんは答える。
「君たちがご執心の人虎さ。彼のために70億の賞典を懸けた人物が誰なのか、知りたくてね」
そのために、わざわざこんな危険な真似をしたの?
下手をしたら殺されていたかもしれないのに?
握りしめた拳が震える。
けれど、それが怒りなのか悔しさなのか、あたしには自分でも分からなかった。
「身を危険に晒してまで? 泣かせる話じゃねぇか……と言いたいが、その結果がこのザマじゃぁな。麒麟も老いぬれば駑馬(どば)にも劣るってか? 『歴代最年少幹部』さんよ」
揶揄するように言った中也が、得意気にナイフを弄びながら続けた。
「ま、運にも見放されたしな。何せ、俺が西方の小競り合いを鎮圧して、半年ぶりに帰ったその日に捕縛されるんだから。俺からしたら幸運だったぜ」
そんな中也に、太宰さんは「くくっ……」笑い出す。
「太宰さん?」
「何が可笑しい」
疑問を投げるあたしたちに太宰さんはゆっくりと言葉を紡いだ。