第17章 紅の櫻守
「……『乱れ、狂え、急げ。生命(いのち)は儚くも咲き散る花の如く、我が身は紅き櫻の如く……』」
異能力――『血染櫻・櫻花繚乱(おうかりょうらん)』
あたしの大量の血液と引き換えに現れる、巨木の妖(あやかし)櫻(ざくら)を召喚する技。
この櫻はあたしの血だけじゃ飽きたらず、他者の血液までも貪欲に求め、それを糧に美しい櫻花を咲かせる。
けれど、その櫻が現れるより早く、太宰さんがあたしに触れた。
異能力――『人間失格』
「太宰さん……なんで……?」
「中也も言っていただろう。君は黙って見てい給え」
そんな、と言いかけて、太宰さんの瞳の奥に、何かしらの思惑を感じ取った。
「……はい、太宰さん」
あたしが黙ったのを確認して、太宰さんは中也に向き直る。
「待たせたね」
「余計な水差しやがって」
中也が舌打ちした。けれど、それ以上あたしを責めることはしない。
「始めるぜ」
中也が太宰さんに迫ったのと同時に、彼の羽織っていた黒い外套が落ちた。
素早く距離を縮め、無数の拳を繰り出す。
そんな拳を、太宰さんは全て避けた。
繰り出された拳の一つを避け、その腕を掴み、中也の腹に一撃入れる。
でも、その一撃は全く効いていなかった。
太宰さんは元々頭脳派で、体術は得意じゃない。
彼の拳を嗤いながら、中也が攻撃を再開した。
相棒である中也の癖も間合いも把握しているけど、それでどうにかなるものでもなく……。
やがて太宰さんは、壁に首を押さえつけられてしまった。
「太宰さん!」
未だ床から起き上がれないあたしは、動かない身体を叱咤して太宰さんを助けようとするけど、彼は一瞬だけあたしに目配せして『待機』を命じる。
どうして?
そう思いながらも、あたしは大人しく待つことしかできない。