第17章 紅の櫻守
「何だァ、これで終いか?」
「そんなわけない!」
異能は駄目だ。
そう思ったあたしは、再び体術で中也に挑んだ。
何でもいい、一発でも喰らわせてやらないと。
拳を、蹴りを、連続で放つ。
だが、中也は軽くそれを避け、その合い間にいくつもの攻撃をあたしに入れた。
やがて、一際重い拳がみぞおちに決まる。
「あぁっ‼︎」
――ドンッ
太宰さんが繋がれた壁に衝突し、あたしはその場に崩れ落ちる。
起き上がろうと腕に力を入れるけど、あたしは立ち上がることができなかった。
太宰さんは何も言わない。
あたしも、何か声をかけて欲しいとは思ってなかった。
ただ……情けない。
悔しくて唇を噛みしめると、そこから血が流れる。
「テメェはそこで黙って寝てろ。……俺はわざわざテメェと漫談するために来たわけじゃねぇ」
中也があたしに言い放つ。後半は太宰さんに向けられたものだ。
「じゃ、何しに来たの」
尋ねる太宰さんに、中也は「嫌がらせだよ」と答えた。
「あの頃のテメェの『嫌がらせ』は芸術的だった。敵味方問わずさんざ弄ばれた。だが……」
中也は足を上げ、太宰さんの頭上を一閃させる。
――ドゴッ
音を立てて崩れた壁には大きな亀裂が入り、太宰さんを繋いでいた鎖も砕けた。
「そういうのは大抵、後で10倍になって返される」
中也は黒い手袋を嵌めた手で太宰さんを指さす。
「俺と戦え、太宰。テメェの腹の計画ごと叩き潰してやる」
自信満々に言う彼を、太宰さんは静かな声で呼んだ。
パチンッと太宰さんが指を鳴らすと、ジャラッと手枷が外れ、床に落ちる。
「君が私の計画を阻止? ……冗談だろ?」
鼻で笑う太宰さんの手にはピンが握られていた。
「いつでも逃げられたってわけか。良い展開になって来たじゃねぇか!」
「待って‼︎」
あたしは大声で叫んだ。
「太宰さんは……あたしが守る!」
なけなしの力を振り絞って、あたしは血液を操り、身体中を傷つけた。
「詞織⁉︎」
「…………」
声を上げたのは中也だった。