第17章 紅の櫻守
「今回は、マフィア相手と知れた時点で逃げなかった谷崎が悪い」
「マズいと思ったらすぐ逃げる。危機察知能力だね」
国木田の言葉に続けた乱歩さんは、懐から愛用の懐中時計を取り出した。
「たとえば……今から十秒後」
すると、再び事務所の扉が開かれる。
「寝すぎちまったよ」
大きな欠伸をしながら、与謝野先生が現れた。
あ、これはマズいヤツだ。
ビクッと身体を震わせた谷崎が、ササッと事務所から消える。
国木田や乱歩さん、賢治ももういない。
あたしも逃げ遅れないよう、すぐに事務所から出た。
「あぁ、新入りの敦だね。どっか怪我してないかい?」
「えぇ、大丈夫です」
敦の答えに与謝野先生はつまらなそうに舌打ちする。
「ところで、誰かに買い出しの荷物持ちを頼もうと思ったンだけど……アンタしかいないようだねェ」
「え⁉︎」
危機察知能力って、コレ?
そんな敦の声が聞こえた気がした。
* * *
「谷崎には任せられないからね」
あたしは「さて」と心当たりを探すことにする。
川、土手、行きつけの立ち飲み屋、居酒屋、喫茶店……あたしはあちこちを回った。
けれど、どこにも太宰さんはいないし、来ていないと店の人も言っていた。
気づけば夜になっていて、あたしは一度探偵社に戻った。
敦はボロボロで気を失っており、与謝野先生も無傷だけど服はボロボロである。
帰りの電車の中で、爆弾魔と少女、二人組のマフィアに襲われたらしい。
敦はその戦いの中で、異能を制御することに成功したようだ。
そして二人は、敦を襲ったマフィアの少女――泉 鏡花を捕らえた。
マフィアに拾われ、六ヶ月(むつき)で三十五人を殺した。
六ヶ月で三十五人か……あたしは拾われた翌日に三十七人殺したし、特別何も感じないけど。
それよりも、問題なのは太宰さんの方だ。
今日も、探している合間に何度も携帯に掛けたけど、繋がらない。
あたしは胸騒ぎが拭えなかった。
――「まさか、マフィアに暗殺されたとか……」
敦の言葉が脳裏を過る。
そんなこと、あるわけないけど。
でも……もし、もし本当にそうだったら……。
* * *