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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第17章 紅の櫻守


「太宰が行方不明ぃ?」

 コーヒーを飲んでいた国木田が阿呆みたいな顔でそう言った。
 この状況でなかったら笑い飛ばしてやるのに。

「電話にも出ないし、下宿にも帰ってないんだよ!」

 姿を消すのは珍しくないけど、でも、太宰さんはいつだってあたしの電話には出てくれた。
 だから、絶対に何かあったに違いないんだ。
 それなのに、あたしの話を聞いた国木田と乱歩さんと賢治は互いに顔を見合わせて。

「また川だろ」

「また土中では?」

「また拘置所でしょ」

 そんな返事をする。

「もう! 真面目に考えてよね!」

 普段が普段だけに、真剣に取り合ってもらえなかった。
 これは自業自得としか言えないのだけど。

「しかし、先日の一件もありますし……まさか、マフィアに暗殺されたとか……」

「……敦」

 太宰さんの身を案じてくれたのは、敦だけだった。
 マフィアに……あたしたちの居所は知れている。
 暗殺とまではいかなくても、捕まっている可能性もゼロではない。

「阿呆か。あの男の危機察知能力と生命力は悪夢の域だ。あれだけ自殺未遂を重ねて、まだ一度も死んでいない奴だぞ。己自身が殺せん奴を、マフィアごときが殺せるものか」

「それは……っ、そうだけど……」

 語尾が小さくなってしまう。
 確かに、たかだかマフィアが太宰さんを殺せるわけがない。
 それは分かってるけど……。

「でも……」

「ボクが調べておくよ」

 さらに言い募ろうとする敦に声が掛けられる。
 ガチャッと事務所の扉を開いて入って来たのは、先日マフィアにやられた谷崎だった。

「谷崎さん、ご無事でしたか!」

 嬉しそうに声を上げる敦に、国木田が眼鏡を押し上げて、「与謝野先生の治療の賜物だな」と厳しく言う。
 まぁ。
 谷崎とナオちゃんが生きていたのは、奇異の視線を浴び、市警の職務質問を躱しつつ、与謝野先生の元まで運んだあたしのおかげでもあるんだけどね。

「で、谷崎。何度解体された?」

 国木田が尋ねると、谷崎の顔がサァッと青ざめ、ガックリと俯く。

「……四回」

 消え入りそうな声で答えた谷崎に、敦を除くあたしたちは同情の視線を向けた。

「敦君。探偵社では、怪我だけは絶ッ対しちゃ駄目だよ」

 ガタガタと震えながら谷崎が助言するが、敦は何を言われているのかさっぱり理解できないようだった。
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