第16章 少女の一番
「昨日は本当に助かったよ。キミたちがいなかったら、元議員もボクたちも助からなかった」
「改めて礼を言う」
頭を下げる二人に、僕は首を振った。
「いえ、お礼なら詞織さんに。僕はほとんど何もしていませんから」
僕が太宰さんの方へ視線を向けると、自然と二人もそちらに視線が映る。
「その詞織嬢に用があって来た」
名前を呼ばれたからか、寝ぼけ眼(まなこ)をこすりながら、詞織さんは太宰さんの膝の上に座り直し、来訪者へ紅い瞳を向けた。
「何よ」
不機嫌を隠そうともしない詞織さんの態度に内心オロオロとしてしまうが、錦戸さんは膝を折って彼女の手を取る。
「傷は大丈夫?」
「平気。これくらいの怪我、いつものことだし。二~三日もすれば痕も残らない」
「そうか、良かった。じゃあ、今度の休み、ボクとデート……」
――ガツンッ!
突如、錦戸さんは後頭部を殴られる。
「何をしに来たんだ、お前は」
そして、表情筋をピクリと動かすことなく、吾妻さんは跪いて詞織さんの手を取った。
「好きだ。俺と結婚してほし……」
――ガツンッ!
「オマエ、年齢考えろ」
「それはお前も同じことだろう」
バチバチッと火花を散らす二人。
これはどういうことだろうか。
そして、それを楽しそうに見守る賢治君と乱歩さんと与謝野さん。
話についていけない国木田さんは、ただ何も言えずに呆然としている。
太宰さんはガッチリ詞織さんをホールド。
「お前は女には困らんだろう。他を当たれ」
「いやいや、ボクは今回本気だから。ボクが本気ってことは吾妻に勝ち目はないから」
「勝ち目のない戦いほど燃える質(タチ)でな。俺も引く気はない」
ホント、何しに来たんだこの二人。
「要件が終わったなら帰って欲しいんだけど」
詞織さんが口を挟み、吾妻さんと錦戸さんは本来の要件を思い出したのか、紙袋を彼女に差し出した。
「何これ?」
「世界でも三店舗でしか販売されていない高級トリュフだよ」
世界で三店舗⁉︎
全国じゃなくて世界⁉︎
規模の大きさに僕の脳は処理が追いつかない。