第16章 少女の一番
駅での戦いの後、僕たちは軍警に、襲撃してきた鏡の暗殺者を引き渡した。
同時に色々と聞かれたが、今回は事情が事情なだけに、大きな問題にならずに済んだ。
怪我人が出なかったのも良かったのかもしれない。みんなが自主的に避難してくれたおかげだ。
駅構内で大暴れしてしまい、壁や床のあちこちが破損してしまったが、どういうわけか元議員が修繕費を出すと自ら言ってくれた。
どういう心境の変化だろうか。
何はともあれ、僕たち武装探偵社の責任問題にならなくて良かった。
* * *
翌日。
詞織さんは、仕事をサボる太宰さんの膝を枕にして寝ていた。
愛読書を読む彼は、時折彼女の頭を撫でてやっている。
「太宰、仕事はどうした?」
「何かあったっけ?」
「昨日、資産家子息失踪事件を解決しただろう!」
「あぁ、実はただの家出で、その上ヤバイ連中とつき合っていたあの事件だね」
随分と説明くさいな。
そんな二人のやり取りだけで、僕は何となく疲れを感じた。
けれど、国木田さんの怒鳴り声に詞織さんが起きる気配はない。
「詞織! 他人事ではないぞ! お前も起きて報告書を提出せんか‼︎」
「ヤダ。あたしはもう少し寝る。傷は塞がったけど、血は全然足りてないし、その上ダルいし……そもそもイヤな仕事を回された挙句にその報告書なんて、やる気出ない」
「仕事を選り好みするな!」
国木田さんの長いお説教が始まるが、二人に堪えた様子はない。
もはや慣れだろうか。
「朝から元気ですね、あの三人は」
「あの二人には何を言っても意味がない。国木田も学習しないな」
「根が真面目だからねェ。いちいち言わないと気が済まないのさ」
お茶を飲みながら、賢治君と乱歩さんと与謝野さんが言う。
「国木田の声がうるさくて眠れない」
「それは大変だ。私が代わりに子守唄を歌ってあげよう」
「いい加減にしろ!」
そのとき、事務所の扉が開かれる。
「失礼します」
事務員が二人の男性を案内してきた。
「あ、吾妻さんと錦戸さん」
警視庁警備部から元議員の護衛に派遣されていたSPの二人だった。
僕が立ち上がると、錦戸さんが爽やかな笑顔で「やぁ、敦君。昨日ぶり」と応じてくれる。