第15章 鏡の襲撃者
「《きゃぁあ⁉︎》」
「詞織さん⁉︎」
突然の詞織さんの悲鳴に、僕は瓶に呼びかけた。
そして、手すりから階下を見下ろす。
「……っ」
僕は息を呑んだ。
想像以上に彼女は血だらけで、傍目(はため)から見ても立っているだけで精一杯に見えた。
「《敦!》」
駆けつけようとした僕を、瓶から聞こえる声が止める。
「《あたしのことはいいから、早く……!》」
「でも……」
「《あたしを死なせたくなかったら、早く異能力者を見つけなさい!》」
「……分かりました!」
叱咤され、僕はようやく決意を固めた。
見るのではなく、観察する。
どこかに必ず違和感があるはずだ。
壁に手をついて、呼吸を整える。
そして、僕はやっと気づいた。
手をついていたのは、白い壁だった。
石が使われており、白一色。
それが、僕の姿を映し出す。
僕の右側だけ長い不自然な髪形が、反転していた。
――「とりあえず、見つけたときは、壊せば本人も出てくるから」
詞織さんが言っていた通り、僕は握り締めた拳をその壁に叩き込んだ。
――パリ…ンッ!
そこに固い石の感触はなく、まるで鏡が割れたような音を立て、壁に亀裂が入った。
そして、殴り飛ばされた男は、ゴロゴロと床を転がり出てくる。
資料に載っていた男と同じだった。
ブロンドの髪と新緑の瞳を持つ男が僕を睨みつける。
「ちっ、反転しない場所を選んで隠れたのに、よく見つけたじゃねェか。褒めてやるよ」
男は袖口から細い棒を取り出し、異能で鏡の刃を生み出し、それを僕に向けた。
「第二ラウンドだ。ターゲットを守ってるあの女もじきに終わる。お前を殺して、ゆっくりターゲットを殺しに行くとするか」
鏡の刃が僕を映し出した。
迫る刃に、僕は立ち向かうか逃げるかで躊躇してしまう。
それは致命的な一瞬で、訪れる死を前に僕は動けなかった。
そのとき。
「《瓶を割ってッ‼︎》」
それが耳に届いた瞬間、僕は言われた通り、瓶を床に叩きつけた。
パリンッという乾いた音と同時に、紅い壁が出現する。
「な、何だ、これは……あの女か⁉︎」