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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第15章 鏡の襲撃者


 構内は軽いパニックに陥り、逃げ惑う人たちで溢れていた。
 僕はその間を縫いながら、周囲を警戒する。
 事前の資料で見た、敵の異能力者。
 その顔を思い出しながら、すれ違う人たちと照らし合わせる。
 けれど、人が多過ぎて、中々見つけられないでいた。

 僕は上を見上げる。
 二階からも充分階下を狙えそうだ。
 僕は近くのエスカレーターを駆け上がり、階下を見渡せる通路を走った。
 そこからは、血液で壁を作る詞織さんがよく見える。
 血液を消費するのであれば、あまり時間を掛けすぎれば彼女に負担がかかる。

「急がないと……」

「《敦、焦っちゃダメ》」

「え……?」

 どこからか詞織さんの声が聞こえて、僕は足を止めた。

「詞織さん?」

 気のせいだろうか、と思った僕に、「《ここよ》」とさらに声が聞こえる。

「まさか、この瓶に?」

 耳を澄ませば、手の中の紅い液体が入った瓶から聞こえていた。

「《そういうこと。自分の血液を媒介に声を届けることができるの。視覚や聴覚を移行することもできるけど、瓶越しじゃどっちも役に立たないから、声だけ。半分はそのために渡したのよ》」

「そうですか……」

 凄い異能だ……って、感心してる場合じゃない!

「《見つからないの?》」

「すみません。探しているんですけど、中々……」

 情けない。
 詞織さんは今このときも、身体を張って戦っているというのに。

「本当にすみません。僕……」

「《謝ってる暇があったら、早く見つけなさいよ》」

 急かしているようにも聞こえるけど、そうじゃないと直感で思った。
 謝る必要なんてない、とそう言われた気がしたから。

「《敦、よく観察して。見るのと観察するのは違うの。異能は万能じゃない。必ず穴がある》」

「はい」


 ――「表面に物が映り込める場所なら、そこに入って隠れることができるらしい」


 最初に会議室で詞織さんが話してくれた、敵の能力を思い出した。
 どこかに隠れているのか。
 そう思って、僕は周囲を見渡した。
 姿が映る何か……何か、他になかっただろうか。
 確か、詞織さんは言っていたはず。
 隠れた場所は反転する、と。
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