第14章 その頃の二人
その様子は、まるで子どもか小動物みたいだ。
肌が白く、髪は黒い絹のように滑らか。
言葉はどこか舌足らずで、声は甘く耳に響く。
そして、まるで紅い大きな宝石のような瞳。
顔立ちも整っているし、客観的に見ても、詞織さんは可愛いと思う。
「……何?」
「い、いえ……すみません」
無意識にじっと彼女を見ていたらしく、僕は慌てて謝った。
詞織さんは「そう」と言っただけで、それ以上は何も言わない。
「……詞織さん、聞いてもいいですか?」
恐る恐る切り出すと、詞織さんは僕が渡した(太宰さんから預かった)チョコレートを食べながら「別にいいけど」と了承してくれる。
「内容にもよる」
そうつけ足した彼女に、僕はずっと気になっていたことを聞いた。
「太宰さんと詞織さんって……どういう関係なんですか?」
「関係? どういうこと?」
「あ、えっと……何て言うか、まるで恋人同士みたいだなぁ……なんて」
アハハ、と曖昧に誤魔化しつつも全然誤魔化せていない。
そんな僕に彼女は呆れたような顔をした。
「あんたバカなの? あたしが太宰さんに釣り合うわけないじゃない」
「そうですか?」
「そう。太宰さんとあたしは元上司と部下。恋人なんかじゃない」
「上司と部下……前職の?」
詞織さんが頷いて肯定する。
「ちなみに、何のお仕事を?」
ここで、武装探偵社七不思議の一つを解明できるかも。
「言わないから」
「……ですよね」
そんなに都合よくはいかないか。
「バレない限りは黙っておくように言われてるの。太宰さんに」
太宰さんの言いつけは何があっても守る。
そんな強い意志が窺えた。
「……太宰さんとは、どうやって……?」
尋ねると、詞織さんは少し躊躇する。
話してもいいのか考えているのだろうか。
やがて、彼女はゆっくりと口を開く。
「小さい頃……あたしが9歳のとき。あたしが両親を殺……」
そこで詞織さんは不自然に言葉を区切った。
けれど、止まってしまった言葉の先を聞こうとするより先に、取り繕うように続ける。
「両親を殺……されたときに、あたしを拾ってくれた。それが太宰さんよ」