第14章 その頃の二人
やや歯切れの悪い言い方だったけど、そのことに僕は気づけず、「そうだったんですか」としか言えなかった。
「すみません、嫌なことを思い出させて」
「別に。言ったでしょ。親が死んでからの方が幸せだって」
「それは……そうでしたが……」
顔を伏せる僕に、彼女は再びチョコレートを食べ始める。
「太宰さんは恩人だけど、あたしにとってはそれ以上の存在なの。あたしは太宰さんの命令ならどんなことだってやる。自分の信念を曲げることだってね」
揺らぐことのない、詞織さんにとっての心の芯……根幹の部分。
彼女にとって、太宰さんが占めている部分は想像以上に大きい。
「あたしにとって太宰さんは掛け替えのない、大切な人。たとえ、太宰さんにとってのあたしが、都合のいい、人形だったとしても……」
「そんなことないです‼︎」
僕は思わず叫んでいた。
「太宰さんにとっても、詞織さんは大切な人のはずです! そうじゃなかったら、いつも傍に置いておくわけないじゃないですか‼︎」
そうだ。
太宰さんだって詞織さんを大切に想っている。
そうでなければ、詞織さんにあんな優しい視線を向けることなんてしない。
僕の言葉に、彼女は紅い瞳を丸くして、やがて「生意気」と目を吊り上げて睨む。
「あんたに太宰さんの何が分かるのよ。何にも知らないくせに。分かった風なこと言わないで」
彼女の尖った言葉が僕の胸に刺さった。
あぁ、余計に嫌われちゃったな。
肩を落とす僕に、詞織さんは畳みかける。
「大体、あんたは太宰さんをどれだけ知ってるわけ?」
でも、と詞織さんは続け、今まで向けてくれなかった笑顔を見せてくれた。
「ありがとう」