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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第3章 月夜に微笑む少年


 少し癖のある髪に、端正な顔をした少年だ。
 年齢はあたしよりも3つか4つ……5つくらい上だろうか。
 腕や首、顔に巻かれた包帯が痛々しい。
 そして、少年のその瞳は、酷く濁っていた。
 世界の全てを、諦めたかのように……。

「……世界の綺麗な部分を、確かめたいから」

 人生の総てをかけても、世界を知り尽くすことはできない。
 でも、あたしは醜い世界しか知らないから。
 どれだけ醜い世界でも、一欠片の美しさくらいはあるはず。
 たとえそれがなかったとしても、それを確かめないで決めつけるのは違うと思った。
 そう、自分の考えを口にすると、少年は楽しそうに笑った。

「……実はね、私もこいつらを殺しに来たのだよ」

 顔に傷のある男とその部下が所属していた組織は、ポートマフィアの傘下だったらしい。
 けれど、先日その組織がポートマフィアを裏切り、物資を横流ししていたらしいことが分かり、少年はその組織を潰すべく奇襲をかけた。
 組織は突然の事態にあっけなく壊滅したらしいが、ある男への報復のために数人が出かけていることを知り、わざわざあたしの家までやって来たということだった。

「まぁ、部下にやらせても良かったのだけど……でも、面倒くさがらないで来て良かったよ」

 何が良かったのだろうか。

「……あたしを殺すの?」

「どうしようか?」

「……あなたは、あたしの敵?」

「どうかな?」

 曖昧に答えをはぐらかす少年。
 やがて少年は、ふわりと石から降りてあたしの方へ歩いてきた。
 静かだった空気がピリピリと震える理由があたしには分からなかったけど、それでも、殺らなければ殺られることだけは分かった。
 一歩ずつ近づいてくる少年に、あたしは未だ塞がりきっていない傷口に爪を立てた。
 あたしの血液が意思を持って動き出す。
 うねる血液を操り、あたしは少年の左胸を狙った。
 勢い良く伸びる朱い血に、少年は驚くどころか、怯んだ様子すらない。
 そのことに疑問を持つことなく、あたしは自分の血液に少年を殺すよう命じた。
 けれど、迫る死に少年は余裕すら見せ……。


 ――ドスッ


 あたしの血が、少年の胸を貫いた――はずだった。
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