第16章 実力
「圧倒的な力の前では、力を合わせるだけじゃ、勝てねぇんじゃねぇのか。」
「!…」
火神はそう言うと、控え室を出て行った。
「…ゴメン、先帰ってて…。」
私は控え室を出ようとした。その時、黒子に裾を掴まれた。
「!…」
「…」
「…」
何も言わなくても伝わった。そばにいてほしい。ということだった。
でも、このままだとダメだと思った。感情が、全て溢れ出てきそうだった。
「っ…。」
「…菜月さん…僕は…。」
黒子が何かを言おうとしたとき、視界がぼやけた。
「!…」
床に落ちる雫。
黒子も震える私に気づいたのか、こちらを向いてくれた。
「ダメ…っ…だったの…かなぁ…っ…?」
「!…」
「テツ君…っ…!」
止まらなかった。片手で、どれだけ拭っても。
「っ…うぅぅ…っ…!」
私は声を出して泣いた。黒子は握っていた裾を離し、今度は私の手を握ってくれた。
「っ…。」
黒子も静かに涙を流していた。
*
次の日、鳴成との試合が始まった。
「いけぇ!」
残る2試合。火神君欠場。そして、黒子君の突然の不調。今まで何度もチームを救ったパスは、見る影もなかった。
鳴成との勝負は、78対79で負けてしまった。
全力を尽くしても、挑む者全てが勝者となれるわけではない。私達は負けた。
泉真館との試合も、96対78で負けた。
誠凛高校のインターハイへの挑戦は、終わった。だが、全てが終わったわけではない。終わるということは、同時に始まりを意味する。つまり、新しい挑戦へ。