第2章 黄瀬と灰崎
「おいテメェ…菜月。何してやがんだって聞いてんだよ。そいつは俺に負けたんだ。」
近づいてくる灰崎。バッシュの音が鳴り、私の顔が見えるところへ来て、私を睨んだ。
「黄瀬君、離して…。」(もう……怖くなんかない……。皆がいるから…。)
「…」
嫌。とでも言うように、私を抱きしめる腕に力が入る。
「…少しだけ。灰崎君と話がしたいんだ。」
「…」
すると、力をゆるめ、私を離してくれた。
「…ありがとう。」
私は微笑み、灰崎に向き直る。その間に、黄瀬はタオルで額などの汗を拭いている。
「珍しいじゃねぇか、俺と話?いつも俺に怯えていたお前がか?」
「…そう…だよ…。」
「はっ…。何の話だって言うんだよ。」
「……私は君が嫌いです。」
「…あ?」
「…その声も、性格も、顔も……全部嫌いです。でも、良いところもたくさんある。…強い人が偉いってわけじゃない。黄瀬君だって、努力すれば、いつか必ず、あなたを追い抜く。」
「何が言いてぇんだよ。」
「…君に黄瀬君をバカにする権利はないです。」
「あ?」
「っ…!」
いつもより、低い声で威嚇をされる。
「とにかくコイツは俺に負けたんだよ、菜月、お前も俺のところに来いよ。こんな奴のところにいたって、良いことなんか1つもねぇんだよ。」
「嫌です。」
「!…」
「…私は、人一倍努力している黄瀬君を見るのが好きです。必死になって、頑張っている黄瀬君を見るのが好きです。」