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専属カメラマンにならないか?

第1章 *




「お、俺は三条宗近だ。よろしく頼む」
「藤浪さんが直々にスカウトしたって方ですよね。今日は張り切って撮らせてもらいますね!」

心底そう思っていると言いたげな明るい表情に、少しばかり申し訳なさを感じる。まさかこの笑顔の前で「今日の撮影で芽が出なければ辞めるつもり」だなどと言えずに、曖昧に言葉を濁す。それをどう捉えたのかは俺には分からなかったが、逃げるように終えた挨拶に背を向けた後、その曇りの無い瞳がじっと俺を見ている気がして居心地が悪かった。

「三条さん、スタンバイお願いします。軽くポーズ付ける感じで」

すべてのセットが完了した後、俺を呼んだのは砂庭と名乗った女性ではなく、その女性が来るまで指示を飛ばしていた男性だった。指定された位置へ立ち、レンズへと向かい合う。ファインダー越しの彼女と視線が合うはずもないのに、俺らしくもなく今までの撮影で一番緊張していた。カメラのシャッターを切る音が数回続き、スタイリストとメイクの人間が乱れた部分を直しに来る。いつもと変わらない光景だった。周囲の人間は俺のことを褒めそやすが、認められなければ、芽が出なければ何の意味もないのだ。まるで自分には何の価値すらもないように思えてしまって視線を下げた時、小さな声を拾った。

「うーん…違うんだよなあ…」


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