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専属カメラマンにならないか?

第1章 *




もう逃げてしまおうか。

昨日の夜にそんなことを思った。実際、今日の撮影で何も変わらない様であれば俺は事務所を辞めるつもりだった。決意を新たに撮影準備が整っていく様をぼんやりと眺めている。指示を飛ばす若い男がきっとカメラマンなのだろう、どこか上から目線の様な嫌な感じだ。ああどうせ今日も表面上の繕った表情を撮られるだけだ、何も変わらない。目線を下げ溜息を吐いた時、扉が開いた。

「ごめんなさーい!遅くなりました!」

溌溂とした声が響き、コツコツとヒールの音がすぐそばまで聞こえる。振り向けば俺よりずっと小さな女性が大事そうにカメラを抱えながら撮影現場へ小走りで急いで行く。すれば、今まで準備に取り掛かっていたアシスタント達が一斉に頭を下げて挨拶をした。その中には先程指示を飛ばしていた若い男も含まれていて。まさかと思っていれば、次いで自分に向けられたその曇りの無い瞳にドキリと心臓が跳ねる。

「今日のモデルさんですか? 初めまして! カメラマンを務めます、砂庭(さにわ)と申します」
「……………」

そのまさかだった。この小さな女性は紛れもなく今日のカメラマンで、にっこりと笑いながら俺にお辞儀をする。一見冷たそうに見える切れ長の瞳は、笑ってしまうと愛嬌があってとても好ましかった。長い髪をポニーテールの様に上の方で結わえて、服装はパンツスタイルでカジュアルに纏めてある。彼女を凝視するあまり返答できなかった俺を不思議そうに見やる視線で我に返り、急いで口を開いた。


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