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専属カメラマンにならないか?

第1章 *





その日は良い天気だった。
穏やかな春の陽射しが射し込む様はまるでささくれ立った心も丸く収めてくれるようで、しかし実際には麗らかな天気とは裏腹に俺の心は暗く沈んだまま。溜息が一つ逃げて行った。

ある日突然街を歩いていたら見知らぬ男に声を掛けられ、「モデルにならないか」と誘いを受けた。新手の勧誘か詐欺かと思い無視しようとしたのだが男は存外しつこく、どこまでも付いて来そうな雰囲気に眉を顰めていれば名刺を強引に渡されあっという間に去って行った。しつこく言い下がったかと思えば引き際を心得ている様な不思議な感覚を覚えたのは記憶に新しい。怪しい男の名刺など捨ててしまおうかと思ったのだが、その時俺はどうにも家の者達と上手くいっておらず、進路すらも曖昧な状況だった。逃げるように一度話を聞くだけなら、と興味本位でその男へ連絡をしてしまったのだ。

簡潔に言えば、男は怪しい者でも何でもなかった。本当に芸能事務所の人間だった。それも社長という立場の。所謂スカウトされてあれよあれよという間に契約を交わした俺だったが、それから2ヶ月経っても芽は出なかった。たった2ヶ月かもしれない。しかし、俺には随分長く感じられた。このまま芽は出ないのか。そんな考えが頭を過ぎる。そんなつもりはないが、社長直々にスカウトをされたからといって多少の驕りがあったのだろうか。日に日に事務所に出入りする関係者達の憐れむような視線に晒されるのも限界に近付いていた。


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