第3章 2carat*雪の日
「起きるから静かにしろ」と言いたいらしい。
さんごはその意思を受け取って小さく「ごめん」と呟いた。
「俺がD.R.Sに入ったのは、憧れてたダンサーが講師をしてたからなんだ。直接指導してもらえるのがここしかないと思って入学した。」
「そうだったんだ…。」
「俺はずっとダンス強化で授業を組んでて、先生に個別指導を頼み込んだりもして、そしたら先生がダンサーになる前にお世話になった大先生を紹介してくれるっていうんで飛んだんだ。」
「ダンスが本当に好きなんだね。」
グループ内でもダンスのこととなるとみんな藍に頼るくらい、藍は覚えも早ければキレもしなやかさも表現力もあった。
その裏にはそんなエピソードがあったとは誰も知らなかっただろう。
グループでは最年長で1人だけ学年が違っていたので、6caratになるまで藍がどういう人物なのかはみんな噂でしかしらなかったのだ。
「俺が大先生のとこでお世話になれるのは一年だけだって条件付でさ。大先生も暇じゃないから片手間に俺のダンスを見てくれたよ。」
「それでも一年も見てもらえるのって大きいよね。」
「あぁ。あっちは一年のほとんどが寒い国でさ。大先生の仕事前の早朝と、仕事終わりの深夜にスケジューリングしてもらうのがほとんどだったから、冷え込みが厳しい時間帯ばっかりで。今日みたいに肌を刺すような寒さになると思い出すんだ。」
「そっか…。こんな景色も見れたのかなぁ?」
「もっと綺麗だったけどな。凍った湖や雪のついた葉が茂る公園。空気も澄んでた。」
「いいなぁ…。」
しばらく2人は目を閉じて、全身で「雪」を感じた。
そっと目を開けるともう朝日が眩しくなっていて、にわかに町も起き始めているようだった。
「そろそろ戻るか。翡翠が朝飯の準備でもしてるんじゃないか?」
「うん…あ!」
藍が先に家の方へ歩き出し、それに続いてさんごも一歩踏み出したが、足元の氷に足を取られてバランスを崩す。
「…っと」
藍がすぐに宙を掻いた腕を掴み、そのまま引き寄せて腰を抱いた。
思わぬ接近にさんごはみるみる赤くなる。
「あ、あ、あ、ありがとう!ももももう大丈夫だから!」
慌てて体を離そうとして、今度は雪溜まりにつんのめって再び腕を掴まれる。