第3章 2carat*雪の日
「わぁ…!雪だ!」
寒さで早朝に目が覚めたさんごは窓の外を見て目を輝かせた。
一面の銀世界。
まだ誰も足を踏み入れていないその光景に、さんごは胸を躍らせた。
まだ誰も起きてこない時間ではあるものの、ご近所の目を考えて一応男装に着替え、そっと1階に降りて外に出た。
「あれ…?足跡…。」
玄関から裏庭へ、足跡が続いていた。
この家は高台に建っているので、裏庭からは町が見下ろせる。
誰か景色を見に行ったのだろうか。
さんごは鋭く刺すような寒さに体を抱きしめながら、足元に注意して裏庭に回った。
「あ…藍君…?」
部屋着の上から厚手のダウンを羽織った藍が、まさに町を見下ろすようにして立っていた。
さんごの声に気付き、藍も驚いて振り返る。
「さんごか…早いな。」
起き抜けのままの降ろした長い髪が、振り向いた反動でふわりと朝日を受けてきらめく。
まだ昇りきらないぼんやりとした光が彼をさらに幻想的にさせる。
「さんご?」
しばらくぼーっと見惚れていたさんごは、藍の声でハッと我に返った。
「あ、その…僕もそっち行っていい?」
「あぁ。」
ところどころ凍っている地面もあるので藍は気を利かせて手を出してくれた。
転ばないように握れということらしい。
さんごは出されたその手を握って、慎重に隣に立った。
「わぁ…!すごい…!」
目の前には一面雪を被った町が広がり、屋根という屋根が光を反射してキラキラ輝いていた。
スノードームを逆さまにしたときのようなきらめきがそこにあり、さんごは目が離せなかった。
「綺麗だろ?」
「うん…!藍君、これを見るために早起きしたの?」
「いや…自然と目が覚めてな。こういう寒さは大先生にダンスを習いに行っていた時のことを思い出すんだ。」
藍は寒そうに腕組みをし、はーっと白い息を吐いた。
「そっか。藍君一年休学して外国に言ってたって噂で聞いた。D.R.Sって留年はあっても休学は珍しいことだから…。」
「あぁ。俺はもともとアイドルには興味ないんだ。今も執着はしてない。」
「えぇ!?」
初めて聞く藍のアイドルへの意識に、さんごは驚いて大きい声を出した。
すかさず藍は人差し指をさんごの口に押し当て、続けて家の方を指差した。