第11章 償い
「僕が消えることになるようなら、神奈に気付かれないように個性を使うつもりだった。僕まで消えたら、あの子は本当にもう二度と個性が使えなくなるからね…。それに、演技でも…たくさん傷付けたはずだから…もう泣かせたくなかった」
とにかく成功体験を積ませたかった。
無機物に対しては個性コントロールを幼い頃から身に着けていた彼女が、こと生き物に関してのみにその本領を発揮できないでいた。
とうの昔に会得しているんだ。ちゃんと。彼女はその努力に見合う実力を既に手にしているんだ。ずっと見て来た僕が、それだけは保証する。
あとは一つ
トラウマを越えられる
大きなきっかけさえあればーー…
「この日の為に、ずっと練習してきたんだ。他人の体内水分なんて見えもしないから、結構大変だったけどね」
やりきったと、翔はそう、安堵の表情を浮かべる
だけど正直、僕が思うより彼女は強くなっていた
記憶がなくとも、僕と会えなくなった日々の中で、彼女にはたくさんの良い出会いがあったのだろう
その最たる例が目の前に居る
「神奈なら必ず成功させると信じてた。心の底から。
今の彼女を見たら、僕の今までの練習は無意味だったと気付かされたよ。
失敗させるつもりはなかったけど、個性を使うつもりも、本当は少しもなかったんだ…」