第12章 再起
『もう少し──…』
“時間をください”──、と続く言葉は飲み込まれた。
頭に置かれた太陽みたいな手の感触を、私はハッキリと覚えていたから。
わしゃわしゃと乱雑に掻き撫でられる。
「分ァってる」、と少し震えた声が頭上から降る。
「テメエの気持ちもリセットされちまってんのは分かってて言った。そーゆー返事が来んのもな」
『っ』
そう、分かりきっていた。
この女が以前のような感情を今俺に向けてねぇことぐらい。暗い部屋で再会した時から分かっていたことだ。
胸の辺りがざわめくような、慈愛に満ちた眼を向けなくなったことぐらい。分かってたこったろうが。
それでもケジメとして、約束を守りたかった。例えコイツが忘れてしまっている約束だったとしても。
無理やり連れ去った訓練場で、無理やり唇を奪ったあの日。
格好悪ィくらい紅くなった顔で言ったあの言葉。
あン時も、テメエは固まってたな。
そんでスグに真っ赤になって、涙目で返事をしようとしてた。
聞かずとも分かるくらい、嬉しそうな顔してよォ。
“爆豪……私…”
続く言葉は想像できた。
けど俺は、
“まだ返事は要らねえ”
時間は戻んねぇがよ。もしあン時、スグに返事を貰ってたら、何かが変わったのか?
例えば今、コイツにこんな顔をさせずに済んだのか。
例えばあの時、コイツが黙って翔について行くこともなかったのかもな。
「俺はいくらでも待つ。テメエの気持ちに整理がつくまでな。」