第10章 白紙
神奈が強い人間じゃねえことなんざ
俺ァずっと、分かっていた筈だった
廊下でヴィランと遭遇した日
USJ事件の帰り
体育祭の休憩時間
神奈が泣くのを何度も目にして来た筈だった
”ないわよ 最初っから 私に価値なんて”
強い人間だと錯覚していた
弱い面よりも強い彼女を多く見て来たから
もっと、早く
彼女の綻びに気付いてやれていれば
こんなにも痛々しい姿を見なくて済んだんだろうか
握りしめた手は想像以上に小さかった
その小さな手に入りきらない程
多くの重圧があったんだろう
それはきっと、想像に易い筈だった
周囲の誰も、あんなに側に居た俺ですら感ずけなかったのは
彼女がそれを一ミリも感じさせない程、自信に満ち溢れた姿をしていたから
膝をつき泣き崩れる彼女を誰が想像した?
顔に覆った手の平から止め処なく溢れる涙を誰が想像した?
”自分には価値がない”と叫ぶ彼女を誰が――…
今まできっと、取りこぼしてきた命がたくさんあったんだろう
その小さな身体では抱え込めない程たくさんの期待に応えようとしてきたんだろう
なら俺が
今、神奈に掛けるべき言葉は――