第10章 白紙
顔が横に流れていた
頬がじんじんとする
乾いた音が、部屋に響く
「うるせえよ、いっぺん黙れや」
きつい言葉に反して、彼の顔は悲痛なものだった
「言っとくが俺ァなあ、てめえに個性がなかったらって何度も何度も考えてたんだよ」
『―…え…?』
「個性思うように使いこなせないから私には価値ありません、だからヒーローじゃなくヴィランの方が向いてるんです――…ってか?!ふざけんじゃねえぞブス!!!思考回路イカレてんのかテメエはよォ!!!」
『―ッ』
ぐ、と襟元を掴まれ
強い力で引き寄せられる
吊り上がった目と、視線が合う
「どうせテメエは!!そのクソみてェな偽善振りかざして、目に入った奴全部救いたくて仕方なくなんだよ!!!だったら!!!」
「今、すぐ!!テメエの弱さと向き合いやがれや!!!!」
『――…』
息が詰まる
肌が震える
彼の言葉が、鼓膜をこだまする
無理だったんだよ、何度も何度も自分を鼓舞してやってきたんだ
諦められたら楽だったのに出来なかった
自分に出来る努力は全てしてきた
それでも何も、成長出来なかった
なのに
「いつまで逃げようとしてんだコラ!!!無理でもやんだよ!!何人消してでもやんだよ!!そんで何千、何万の人を救うヒーローにテメエはなるんだよ、神奈……ッ!!!!」
無茶苦茶だ
説得になってない、ただの説教だ…
私は、こんな人を、好きになったの…?
信じられない
『……嫌』
「あァ!!??」
『…嫌よ、誰も……死なせたくなんかない』
気付けば震えは止まっていた