第8章 開闢行動隊
「…おい」
低く放たれた言葉と共に
冷気が身体を覆い始める
地面が凍てついてゆく
「爆豪を…返してもらうぞ…ッ」
冷たく凍てついたこの心を
早く、神奈の暖かさで……
出来るだけ派手に
大袈裟に氷壁を繰り出す
「視界が悪くなるだけで愚策だぜ?轟焦凍」
継ぎ接ぎ野郎の言う通りだろう
まして今は二対一…いや、爆豪を攫った奴がまだここに居るとしたら
三対一だ
こんな消耗戦
ヤケを起こしたようにしか見えねえだろうな
「息が上がってるねえ焦凍くん」
あっちこっちからひょっこり出てきては
ナイフで狙ってくる
神奈の姿をした敵
「闘い辛いですか?神奈ちゃんの姿相手だと一瞬躊躇っちゃいますか?優しいね」
「ッくそ」
確かに一瞬本物かと思って戸惑っちまう
神奈はあんな表情しねえのに
分かってんのに
身体が凍る
霜焼けがひりひりとする
それでも
轟は氷壁を出し続けた
〈早く…〉
心の中でそう唱えながら
「見苦しいなァ
明らかに不利な状況で、なんで逃げなかった?
勝てる自信でもあったのか?」
荼毘の手から黒煙が噴き出し
轟の身体を掠る
「ッ!」
〈早く……〉
避けた先に荼毘が
氷壁の陰から現れる
「だから言ったろ
愚策だってよ」
「ッ!!」
手の平から今までで最大の火力の炎が放射される
轟は咄嗟に厚い氷の層を作るが
どんどん薄くなっていくのを感じる
くそっ…身動き取れねえ…っ!
噴出される炎の壁から逃げようにも
逃げ道はない
必死に建てた氷壁もどんどんと溶けていく
自身を守るこの壁も
あと…数センチ………
荼毘の顔すら見えるほどの厚さに溶けてしまった
…もう、やばいな
そう思ったその時
茂みの向こうから待ちに待った声がする
「轟くん、助けに来たよ!!」
「っ緑谷…!」
緑谷だけじゃない
その奥には常闇に障子も
これでやっと…
「形勢、逆転だな」
ニッと不敵に笑い
反撃の狼煙を上げる