第8章 開闢行動隊
「……神奈…?」
茂みの奥から現れた女に
先に言葉を掛けたのは
轟の方だった――…
なぜか俺は
目の前に突如現れた女に
どこか現実味を帯びていない
夢現の様な
そんな感覚に支配された
だってそうだろ?
こいつは敵に攫われて
タンクの上で泣き叫んでて
死柄木の肩は治されていて
でも目の前には…
『……か…つき…?』
夢にしては鮮明に
俺を呼ぶ神奈の姿が映っているんだから
「っ…おま、お前!どうしてこんな所に…!?」
またしても先に言葉を発し
彼女に近づいたのは轟だった
この男がこんなにも取り乱して
理解が追い付いていない様は
実に珍しかった
「訳が分からねえ…いや、取り敢えず
怪我とかねえか?どこも変な場所とか…っ」
『大丈夫だよ轟くん…!
ごめんね…いっぱい心配
させたよね…?』
「いや、そんなことはどうでも良い
無事なら…それだけで十分だ」
この男が
こんな顔すんのは
初めて見たな…
爆豪はなぜか
どこか画面越しで行われているドラマでも見ているような気分だった
ゆっくりと
恐る恐るこちらに歩を進めてくる少女を
ただ呆然と待ち続けた
『会いた…かった』
俺を見上げて涙する大切な人
ずっと
ずっと
会いたかった人――…
「…神奈……っ」
抱き寄せた
力一杯に
神奈だった
こいつは
神奈なんだ
感触を確かめるように触れる度に
実感が少しずつ湧いてくる
簪を外しているが同じ髪
同じ瞳
同じ肌の色
同じ、声――…
俺が愛した
心を覆うような
優しいやさしい声音
「神奈…っ」
腕に力がこもる
感情が
溢れ出す
柄にもなく
瞳が滲む
言いたいことは山ほどあった
聞きたいことも
山ほどあった
けど
それよりも
ただただこれが現実なんだと
そう肌で
感じたかった