第8章 開闢行動隊
『…何?今の音
またアイツ?』
すぐ癇癪起こすんだからー、と伸びをしながら奥から現れた少女は
その体には大きめな黒い服を身に纏い
丈の合わない黒い細身のズボンは
その先を捲り上げることで地面から離されている
「あ!テレビの!」
そうトガに指をさされた同じく少女は寝起きの様子で
見知らぬ顔二つを細目で伺い
スッと黒霧に視線を移す
『…誰?』
「神奈さん…やっと起きたんですね 」
もう少し早く昼寝から目覚めてくれれば死柄木もあそこまで露骨に苛立ちを表出させることは無かったのにと、たらればを言いたくなったが
言葉を呑み込むことには慣れたものだった
「トガさんと荼毘さんです
…なんと紹介すれば良いか
死柄木の承諾待ちですが、新しい仲間…となる方々です」
『…へえ』
まるで興味の無さそうに発された言葉とは裏腹に
彼女の纏う空気は少しピリッとしものに変わった
「報道どおりだったんだな」
荼毘が神奈を見て冷静な口調で口にする
「敵連合に誘拐されて、寝返ったって」
その言葉に神奈 はピクリと反応を示すが
見向きもしないまま言葉を流す
『黒霧さん、アイツどこ行ったの?』
無視された荼毘を憐れむようにトガが隣りを流し見る
「…さあ、私にも知らせず出て行かれましたので」
『……』
黒霧はまだ数日しか関わっていない彼女の仕草を
多少は理解できるようになっていた
無言で斜め下をみやるのは
決まって何かを考えている時だと
そしてその仕草はほんの一瞬で
はじめの頃はそんな素振りを気にも止めることはなかった
きっとこの短期間で彼女を加速度的に理解できるようになっているのは
信用ゆえ
いや、これは仲間意識が共有されているからという甘いものでは決してない
そして信用が「ある」というわけでもない
むしろその逆で
信用がないからこそ
信用がないがゆえ
彼女の機微に細心の注意をはらっていた結果といえよう
彼女はあの日以降
全てを諦めたような素振りを見せる
あの日
ヒーロー殺しと脳無が
保須市を襲ったあの日
自身の無力を痛感したあの日
彼女の茶色の瞳は翳りを孕んだ