第8章 開闢行動隊
夜の帳が下り
未だ霧がかる胸中を抑え込むよう目を閉じる
他の奴らは訓練の疲れから布団に入ってすぐに寝た
爆豪は一人
布団に沈む身体とは反対に
浮き上がる意識に腹が立つ
神奈が居なくなってから
まともに眠れた日などなかった
「爆豪…」
「っ」
周囲のイビキ声に紛れ
足元から微かに声がした
全員寝ていると高を括っていた彼は
その身を少し動かした
「…まだ起きてんのか?」
どこか凛としたその声は
周囲への配慮をもって発される
「…チッ」
てめえには関係ねえだろ、と目を瞑ったまま舌打ちをする
声の主である轟は
ゆっくりと数度瞬きをし
少し奥へと布団に潜り込む
「…そうか」
どこか同情めいたその声音に
爆豪の苛立ちは増していく
「…たぶん、同じだ」
なにが、と聞かずとも
分かってしまう
こいつもまた
同じ理由で眠れねえんだ
轟は天井を見つめたまま
またゆっくりと口を動かす
「頭休めようと思っても
その隙間縫うように、神奈の事を考えちまう」
こうしたら良かったとか
ああしとけば良かったとか
「死んではいねえと分かっても
それだけじゃ全然
安心出来ねえ」
その不安要素は山程ある
保須で映されたあの姿
泣き噦る彼女の見たこともない姿
そしてそれを
満足そうに抱く死柄木の姿
その映像を見て、ああ、こいつは神奈を殺さない、と確信した
確信したのはきっと
死柄木と同じく
彼女に恋をしている者だけだろう
同じ目を彼女に向ける犯罪者に
そこはかとない憤りが沸いて起きた