第7章 敵連合
「神奈さん、朝御飯はもうお済みですか?」
『あ、いえまだ』
「なんでそっちに訊くんだよ」
死柄木の我儘に
表情は見えないはずの黒霧さんも
困った装いをする
「…でしたらこちらを」
そう、言いカウンターの奥から取り出したものは
デパートとかで売っていそうな
しっかりとした器に着飾られた
黄色く輝くプリンだった
『え、良いんですか…?
これ高いですよね…?』
私でも名前は知ってるよここ
「先生が貴女にと」
「先生が?」
へえ、と思案顔で出されたものを見下ろす死柄木
…これは所謂
飴と鞭…?
印象操作を行われているような気しかしないが
それを分かって食べるなら問題はない…よね?
というか折角買って貰ったもの
学生じゃなかなか手が出せないもん
食べたいという欲が理性を上回った
ああ
将来私、太りそう
『…じゃあ遠慮無く
先生にお礼を言っておいてくださいませんか?』
「承知しました」
先生…
未だその姿を、声を
目にしたこと耳にしたことも無いけれど
きっと思慮深く
小賢しく、恐ろしい巨悪…
なんだろうな
この二人を駒として使える度量や頭脳を
持ち合わせているのだ
会いたいような
そうでないような
いや、でも
恐らく私の記憶を消したのはその人だろうから
だってこの二人以外に仲間が居る様な素振りは目撃していない
まぁ外注という手段もあるが
それでも、記憶を戻すにはきっと
先生に会わないと始まらない
用意周到に渡された銀スプーンを
ツプリと我ながら豪快に掬い上げ
これまた豪快に口に頬張る
思考と表情の不一致など気にせず
その甘い誘惑に身を任す
『…おいし……』