第6章 体育祭
「…落ち着け」
肩を震わす大事な人に
掛ける言葉が分からない
『翔の刺された腕は…もう動かない
神経を切られたって、そう聞いた』
「…そう、か」
『その事件以来、翔とは会ってない
連絡も、つかなくなった…』
雄英襲撃時の帰り
こいつがその男の名を
複雑そうに呟いていた意味が繋がった
『お母さんから聞いた話では、東京の
おっきな病院で治療することになったらしくて…どうなったのかも
生きているのかさえ、知らなかった』
「そんであの敵の言葉に驚いてたのかよ」
『うん…まあ幼馴染がいつの間にか敵になってたら…そりゃ驚くよね
…でも、敵でもなんでも
生きてさえいてくれたら
それだけで十分』
なんて、ヒーロー目指してる奴の台詞じゃないよね
「生存さえ確認出来たんなら、次会った時でも
曲がった根性と一緒に、身体も治してやれよ
今のお前なら、今度は成功すんだろ」
『……そう、かな…けど、それはもう出来ないかな…』
「…?」
『私の個性はあくまで「復元」…
だから、片腕だけ小学生の頃に戻してしまうことは
寧ろ不安定な身体にさせてしまうことになる』
戻すならそれは
身体も記憶も何もかも
あの時に…
『それを、翔が望んでくれるか…分からない』
それはあまりに
倫理観の欠如した方法
それは私の
最も犯してはいけない禁忌の一つ
「おい待て、それつまり…」
鼓動が早まり
気がせいる
「お前の個性は、やりようによっちゃ…
人を不死にも出来んのか……?」
喉の奥がヒュッと鳴った
たられば
都市伝説
ネットでもよく議論されている
そんな存在が
今、目の前に
『…そう』
この瞬間
俺の中の現実と架空は
折り重なった