第6章 体育祭
誘拐
日常会話で耳に挟むようなものではないが
神奈はそれを
こともなさげに口にする
お前の個性は
そんな副産物も生んでしまうのかよ
『翔の家に向かってる途中…車に引き込まれそうになって……
必死に暴れたんだけど、個性使うのも怖くて出来なくて…
流石にその時は
もうダメかと思った』
けど
「…」
『…翔が
助けに来てくれたの……』
お互いまだ小学生で
個性の使用も覚束ない頃だったけれど
翔の個性は
当時から大人顔負けのものだった
『大人四人を、小学生の翔がなぎ倒していく姿は
ヒーローそのもので…』
だけど
事態はそう
簡単に行くものではない
『一人、ナイフを身体から出す個性の敵が居て
それで………』
その後の展開は
聞かずとも測れた
彼女の目には
悔恨の涙が滲み出るが
流すまいと
必死に耐える
「…神奈……」
『っ』
『治そうとしたの!
したん…だけど……ッ』
神奈の背中を
ゆっくりとなぞる
『…発動しなかった……
助け…られなかった………』