第6章 体育祭
神奈の希望通り
たこ焼きの屋台の屋根の下へ足を踏み入れ
陰りを浴びる
「へいらっしゃい!」
活気のよい声と一緒に
鉄板の熱気がふきかかる
『おじさま!たこ焼き2つくださいな!』
神奈の目はこれまで見た事ないような輝きをその中に宿し
口元は本人の意思に反して引きあがっていた
ああくそ
こういう所がいちいち…
可愛いなんて思ってしまう自分に恥ずかしくなる
「可愛いねお嬢ちゃん!!タダでやるよ!!」
「!」
一瞬自身の心の声が出ていたのかと吃驚した
『えっ!いいんですか…!?』
「ああ!!さっきモニターで見てたよ?嬢ちゃんの活躍!嬢ちゃん、可愛いだけじゃなくてカッコいいんだねぇ」
おじさんなんだか応援したくなっちゃったよー、とその厳つい顔つきとは似合わずにくねくねと体を揺する店主
「そっちの爆豪君もタダね!頑張って優勝してくれよな!」
「たりめえだ」
『態度』
すかさず注意が入るが爆豪はフイっと顔を逸らす
「あいよ!がんばってね!」
応援してるよー!と最後まで手を振る店主を背に
俺は神奈が人ごみに流されない様にゆっくり引っ張る
『爆豪、自分の分はせめて持つよ…?』
「は?」
たこ焼きのこと言ってんのか?
「持たすわけねぇだろ」
とぼそりと呟き
そのままひとの波から抜け出す
すでに慣れ親しんだ校内の
外部の人間の知らない穴場にやって来る
「そこ、座って待ってろ」
『え?爆豪は?』
「いいから…」
相変わらず有無を言わさないその言動に
言われた通りにする神奈
それを確認すると
「先、食ってろ」とだけ言い残し
爆豪はもう一度
人波に身体を投げ出した