第6章 体育祭
出かけた涙を目に押し込むように袖で拭き
爆豪の帰りを待っていると
さっきまでとは少し雰囲気を落とした彼が
ゆっくりと帰って来た
『……爆豪…?』
何かあったのか聞きたいが
良いのだろうか?
そもそも彼が答えてくれるとも思わないが…
「…昼、行くぞ」
やっぱり何も言ってはくれなかった
不意に彼が来た方向を見て見れば
そこには緑谷君と
そして焦凍君が
別々に重鎮な空気を纏って立ち去って行くのが見えた
『あ……』
一瞬二色の髪の隙間から覗いた焦凍君の目が
今迄に見たこともないような
憤怒の色を靡かせていて
立ち入ってはいけない線が
私の前に姿を現した
その後も
何も喋らない爆豪と神奈だったが
その重苦しい空気は突如
無神経に打ち砕かれる
「あっれーーー?さっきの2人じゃないか!もしかして君達、付き合ってたのー?」
…この煽るような喋り方は……
『…物間君……』
「あ"…?」
「凪山さんに名前覚えて貰えて光栄だよ。君は普通科だけど、1年の中で一番の将来有望株だからね」
それに
ズッと距離を詰められ
神奈の両手をその手で包む
「凄く好みなんだ」
『へあっ!!??』
「あ"!!!??」
思わず奇声を上げて赤面してしまうが
物間は構わず押してくる
「いやー、食堂で見かけてからずっと言いたかったんだよね
今日の騎馬戦でもさ、ホントは君の個性使って爆豪を全裸にしてしまおうと企んでたんだけどさ
いざ触れるとなると何か後ろめたくなっちゃって!」
「んだとてめえ!!」
はっはっはーと何が面白いのか分からないが
それにつられて神奈も
口角が自然と上がってしまう
「あ、やっぱり凪山さんは笑った顔の方が素敵だよね」
『へっ…?!』
何でそんなツラツラと口説き文句が出てくるんだこの人は
慣れてなさ過ぎる現状に
ただただ紅潮するしかなかった
物間はチラリと意味ありげに爆豪を見て
「今度は、僕の勝ちみたいだね」
そう言って手を放してくれた